
2025.05.01

はじめに―「基金」という言葉の広がりと、その曖昧さ
「○○基金が立ち上がりました」
「□□大学が新たな基金を設け、寄付を募っています」
こうした言葉を耳にして、「うちの団体もそろそろ基金を考えるべきかも」と感じている人もいるかもしれません。
大きな資金を集め、持続的な活動を支えていくには、しっかりとした“器”が必要。その代表的な手段として、多くの団体が注目しているのが「基金」という仕組みです。気候変動、災害支援、教育格差、医療など、年々複雑化する社会課題に対して、単発的な資金調達では追いつかない——そんな現場の声からも、継続的な支援を可能にする基金の重要性が高まっています。
とはいえ、いざ「基金って何?」と聞かれると、自信をもって答えられない人も多いのではないでしょうか。
実際、「基金」と名のつくものの中身は千差万別で、定義も運用方法も団体によってバラバラです。中には明確な定義がないまま、団体が任意に基金と呼んでいることもあります。
本記事では、READYFORにおけるファンドレイジング支援の知見を踏まえながら、「基金」をファンドレイジング戦略においてどう設計し、どう活用していくべきかを考えていきます。特定の正解を提示するのではなく、目的に応じた最適な仕組みを描くための視点をお届けします。
本記事が、これから基金の活用を検討する団体にとって、持続可能で意味のある仕組みづくりの一助となれば幸いです。
基金とは、特定の目的のために寄付などの資金を集め、それを適切な仕組みで管理・活用する「お金の受け皿」のことです。
たとえば学校法人会計における「基本金」のように会計上定義されることもありますが、一般にはもっと柔軟な意味合いで使われています。つまり、「基金」という言葉自体に厳密なルールがあるわけではなく、実際には多様な形態が存在します。
たとえば──
大学や病院の基金:
寄付を募り、研究や奨学金、医療設備などに活用
冠基金:
寄付者の名前を冠した基金。寄付の動機付けとして有効な場合も
クラウドファンディングを通じた基金プロジェクト:
短期集中で不特定多数から広く資金を募り、適切な団体に分配する仕組み
このように、呼び名は同じでも目的も、規模も、仕組みもさまざまです。
だからこそ、まずは「自分たちが目指す基金は、どんな枠組みであるべきか?」を明確にすることが、設計の第一歩となります。

多様なパターンが存在する基金。しかしながら、ファンドレイジングの視点から整理すると、どの基金にも共通する3つの基本要素が見えてきます。
この3つの視点に沿って検討を進めることで、自団体にとって最も効果的な基金の形を考えていきましょう。

①まとまった原資を得ること

基金は継続的な資金活用や複数団体への助成などを想定することが多いため、まずは原資たる一定規模の寄付金を集めることが必要になります。
主に個人の富裕層や企業から、大口寄付として資金を募るケースが多く見られます。特定の個人や法人による単独の寄付もあれば、複数の主体からの寄付を合算して基金とする場合もあります。
寄付の募集期間についても、一回限りの募集(ワンショット型)もあれば、継続的に受け付けるスタイルもあります。
②用途に応じた法人(ハコ)を選ぶこと

そもそも非営利活動の主体にはNPO法人、一般社団/財団法人、公益社団/財団法人など、さまざまな法人形態があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。法人の会計制度において「基金」が規定されている場合もあれば、そうでない場合もあります。
また、自団体内に基金を設立するのか、既存の他団体に設立してもらうのか、基金のために新法人を立ち上げるのかもオプションになります。この点については法人形態の比較とともに次の章で詳しく説明します。
③継続的に活動費を拠出する仕組みをつくること

集めた原資をどのように活用していくのかを、あらかじめ設計しておくことも大切です。
どんな活動に対して、年間でどの程度の資金を充て、将来的にどのような成果を目指すのか——こうした点が明確になっていなければ、寄付者も安心して大きなお金を託すことはできません。
大きな分岐となるのが、集めた資金を自団体の既存の活動に充てるのか、あるいは特定のテーマに沿って、他団体や個人に助成という形で分配するのかという方向性です。後者の場合、「どのような人・団体に支援するのか」「どのような条件で助成するのか」といった設計も求められます。
また、原資が一定(目安として数億円程度)以上ある場合には、その資金を運用し、運用益の一部を毎年の活動費に充てる仕組みを取り入れることも、基金を持続的かつ安定的に活用していくうえで非常に有効です。資金の使い方に明確なビジョンを持ち、それに適した仕組みを設計することが、成果につながる基金運営の鍵となります。
このように3つの要素ごとに設計上の選択肢が存在します。その組み合わせ次第で、基金のあり方は実にさまざまな形をとることになります。
先ほど触れた「②用途に応じた法人(ハコ)を選ぶこと」についてもう少し詳しく見ていきます。
どの法人形態を選ぶかによって、その後の運営の自由度やコスト、さらには寄付者にとっての税制上のメリットまで大きく変わってきます。だからこそ、この判断は非常に重要であり、法務・税務の視点を含めた多角的な検討が欠かせません。具体的な設計フェーズでは専門家の知見を得ながら進めていくことが強く推奨されます。
代表的な法人形態:
基金の管理法人として選択される代表的な法人形態には、以下のような種類があります。
非営利法人
一般社団法人
一般財団法人
公益社団法人
公益財団法人
NPO法人
認定NPO法人
学校法人
医療法人 など
公法人
地方公共団体
独立行政法人 など
法人選択において検討すべき主なポイント:
基金の管理法人をどのように設定するかを考える際、たとえば以下のような検討ポイントがあります。
検討ポイント | 内容 |
|---|---|
法人税の扱い | 利益の非課税枠や法人としての税制優遇の有無 |
寄付者の税制メリット | 寄付金控除、相続財産寄付における相続税の非課税など、寄付者側の利点 |
資金分配の自由度 | 支援先の選定方法、内部留保の可否、自由度の高低 |
設立や管理の難易度 | 設立要件の厳しさ、事務手続きや報告義務の重さ |
既存団体との関係性 | 新法人との切り分けのしやすさ、連携のしやすさ |
外部団体との関係性 | 外部団体に基金を設立してもらう場合の制約や自由度 |
これらはあくまで一般論として考えられる点の例示です。実際にはさまざまな要素を総合的に見極めたうえで、最適な法人形態を選ぶ必要があります。自団体では満たせないニーズに応えたい場合、基金のために法人を新設することも一つの選択肢です。
新たに基金のための法人を立ち上げる場合、最も検討されやすいのが「一般社団法人/財団法人」や「公益社団法人/財団法人」です。
以下にそれぞれの主な特徴を比較して整理します。
公益法人(公益社団法人・公益財団法人)
公益法人は、所轄庁の認定を受けて公益性の高い活動を行う法人で、寄付者に税制上の優遇措置があるのが最大の特徴です。具体的には、所得控除や税額控除(※所轄庁への申請を行った団体のみ)の対象となるため、個人寄付の受け皿として効果的に機能することが想定されます。
一方で、公益性を担保するための制約が多く、設立・運営には相対的にコストと手間がかかります。公益認定を受けるには行政庁の審査を通過する必要があり、その後も毎年度、事業計画書や事業報告書等の提出が求められます。
一般法人(一般社団法人・一般財団法人)
一方、一般法人は設立や運営のハードルが比較的低く、資金の活用においても柔軟性があります。寄付者に対する税制上の優遇措置(所得控除や税額控除)は受けられませんが、寄付者側の税制優遇が問われにくいケース(法人形態に関わらず相続税の対象外となる遺贈寄付など)については一定の活用が見込まれます。ただし、非営利徹底型でない場合には法人側に課税される点、また遺贈寄付を受け入れる場合には一定のリスクがある点などに注意が必要です。
資金の使い道については、寄付者の意向に沿って比較的自由に設計可能であり、最終的な決定は理事会に委ねられます。設立要件はシンプルで、一定の社員数または財産があれば基本的に設立が可能であり、コストも抑えられる点がメリットです。
専門家の知見を得て、慎重に判断を
ここまで述べた法人形態の特徴や選択肢は、あくまで一般論に過ぎません。実際には、基金の目的や寄付者のニーズ、原資の調達方法などによって、最適な法人スキームは異なってきます。
特に、税制優遇を活かしたい、透明性の高い運営を実現したいといったニーズがある場合には、税理士や弁護士、司法書士といった専門家の助言を得ながら、法人形態や基金設計を詰めていくことが不可欠です。
ここまで基金の具体的な設計オプションについてお伝えしてきました。ここからは、ファンドレイジング戦略の中で基金をどう考えていけばいいかを見ていきます。
READYFORファンドレイジングサービス部門では、「ファンドレイジングがうまくいっている理想の状態」について、次のフレームワークで考えています。

①調達(寄付者に対するアプローチの設計)
さまざまな寄付の出し手から支援を集める段階です。「どんな人に、どんなアプローチで、寄付をしていただくか?」を設計します。
②運用(お金の受け皿の設計)
調達した資金を適切に管理・運用する段階です。基金を設立したり、そこからの運用益を事業に充てるという手法もあります。「預かったお金をどう守り、育てるか」という視点が重要です。
③活用(インパクトの設計)
資金を活用して事業を実施し、社会的インパクトを生み出す段階です。「このお金で、どんな変化を生み出せたか」を可視化することが、支援者はじめステークホルダーへの説明とお礼になり、次につながります。
④パブリックリレーションズ
単なる情報発信ではなく、支援者との信頼関係を育む継続的な対話の仕組みです。支援者が社会変革の一員として参加している実感を持てるようなコミュニケーションが重要です。
⑤組織基盤の強化
どんなに優れた仕組みがあっても、それを実行する人とチームがなければファンドレイジングは続けられません。特に重要なのは、ファンドレイジングを「組織全体で取り組む文化」として定着させることです。
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この枠組みで考えると、基金の設計プロセスは大きく次の3パターンに分けられます。どのパターンであっても、焦点となるのは設計順序と意思決定の軸を明確にすることです。

パターン1|調達の目処はあるが、活用先がまだ決まっていない

この場合は、「何に使うか?」を深掘りすることが優先されます。
単に“良さそうなテーマ”ではなく、社会的インパクトと中長期的な継続性を見据えた活用設計が求められます。
例:遺贈寄付などにより数千万円の原資がある
→ 「この基金で、どのような未来をつくるか?」というミッションを言語化
→ 活動内容に応じて、適切な法人形態や運用方法を検討
パターン2|活用したい事業は明確だが、調達ができていない

このケースでは、寄付者の共感や企業との連携をどう設計するかが重要です。
資金調達フェーズそのものが社会的インパクトを伴うキャンペーンになるよう設計するのがポイントです。
例:子どもの医療格差をなくすため、助成金制度を設けたい
→ 支援者がその理念に共感し、参加したくなるようなストーリーを設計
→ 富裕層向けファンドレイジングやクラウドファンディングを通じて初期原資を調達
パターン3|調達と活用の両方が明確で、制度設計に進める段階

このステージにある団体は、いわば基金設計の“仕上げ”にあたります。
運用体制・税制上の設計・モニタリングやガバナンス体制の確保など、制度の骨組みを精緻化するフェーズに入ります。
例:すでに企業からの寄付コミットメントと、支援先となるプログラムが決定済み
→ 中立性と透明性のある設計を目指して、公益法人化も視野に
→ 専門家(税理士・弁護士等)との協働により制度の実装を進める
実は、「基金をどのように設計すべきか?」という問いに明確に答えられるのは、調達と活用の方針がある程度固まっている場合、つまりパターン3に該当するときだけです。
実際には、資金の使い道や助成のあり方、運用方針といった具体的な設計については、最初からすべてを団体側で決めるのではなく、寄付の意思を持つ個人や企業と対話を重ねながら、一緒に詰めていくケースも少なくありません。
むしろ、初期の構想段階では大まかな方向性にとどめておき、関心を示してくれている寄付者とのコミュニケーションの中で、基金の設計を段階的に具体化していく方が現実的で、納得度の高い仕組みにつながることが多いのです。
基金は立ち上げだけでなく維持コストも伴います。特に既存団体に設立してもらう場合や新法人を立ち上げる場合には、「基金を立ち上げたはいいもののお金が入ってこない」とならないよう注意が必要です。そのためにも、調達と活用の全体像を描いたうえで、基金という手段をどう活かすかを見極めることが重要です。
「基金を立ち上げさえすれば、大きな寄付が集まる」——そんな期待を寄せている人も多いかもしれません。しかしここまで見てきたように、基金はあくまで“お財布”に過ぎず、それ自体に資金を引き寄せる力があるわけではないのです。
本当に必要なのは、どのように資金を集め、何のために使い、どのような成果を目指すのかという、調達と活用の両面にわたる明確な戦略です。基金は、それらの戦略を実現するための一手段として設計されるべきものであり、戦略そのものではありません。
そして、基金を実際に機能させていくには、法人形態の選択や税制上の扱いといった法務・税務の専門的な検討も不可欠です。特に、基金を構想するような大きなお金を扱おうとする団体こそ、ファンドレイジング・法務・税務・ガバナンスといった多角的な観点からの設計が求められます。そのためにも、外部の専門家を早い段階から巻き込み、共に設計を進めていくことが成功のカギとなります。
READYFORでは、単に「基金をつくる」ことにとどまらず、その調達方法や資金の活用方針まで含めた“トータルのファンドレイジング戦略”としての基金設計をご支援しています。ご関心のある方は、ぜひご相談ください。

【お問い合わせ先】
READYFORファンドレイジングサービスでは、ファンドレイジングの戦略設計コンサルティングを提供しています。団体のミッションとビジョンを理解した上で、現状分析から戦略立案、そして実行伴走まで、皆さんの持続可能なファンドレイジングの仕組みづくりをサポートします。まずは無料相談からお気軽にお問い合わせください。
※本記事の内容は、公開時点における法令・制度に基づいた一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の法律上の助言を行うものではありません。法令・制度は随時変更される可能性があるため、実際の基金設計・運営・税務対応などに際しては、必ず最新の情報をご確認のうえ、弁護士、税理士、司法書士などの専門家にご相談ください。
担当 ファンドレイザー
佐藤 沙弥
キュレーター / コンサルタント / 准認定ファンドレイザー
京都大学経済学部卒。国内独立系コンサルティングファーム コーポレイトディレクション(CDI)にてプロジェクトマネージャー。日用消費財、小売、メディア、文化芸術などの業界を中心に経験。その後、経営者専属の編集者として取材・WEBコンテンツ制作を経験する。READYFOR参画後はクライアントの経営戦略とファンドレイジングを接続する役割を担う。
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