
2025.08.01

非営利団体で、事業と資金調達は両立できるのか?
優先すべきは事業か、資金調達か。資金調達は事業を継続させるために不可欠な要素だが、そこに時間を割くことで本来の活動がおろそかになるかもしれないという葛藤は、多くの非営利団体が抱える共通の悩みだろう。
全国のろう難聴児を支援するための事業を展開するNPO法人 Silent Voice(以下サイレントボイス)も同じ悩みを抱えていた団体の一つ。しかし、READYFORの伴走とともに、専任スタッフを置かずにファンドレイジング部門を立ち上げ、大きな金額を寄付で調達することに成功した。
事業優先の軸を曲げずにファンドレイジングへの一歩を踏み出したサイレントボイス。本インタビューでは、代表の尾中 友哉(おなか ともや)さんに話を伺った。

―READYFORにファンドレイジングのご相談をされる前の事業の状況について教えてください。
尾中:サイレントボイスは、全国のろう難聴児向けに「サークルオー」というオンライン支援サービスを提供しています。元々は対面で教室をスタートしたのですが、遠方から片道2時間かけて通っている子や通いたくても通えない子がいると気が付いて、もっと関わりを増やしたいと始めたのがサークルオーです。
オンラインの支援事業ということもあり、コロナ禍でも続けざまに助成金に採択いただいていましたが、財務的には自走はできていない状態でした。コロナ禍以降を考えた時に、寄付も含めた安定的な収支構造が必要なことは明白だったんです。

―そのような状況の中で、ファンドレイジングのサポートをREADYFORに依頼しようと思ったきっかけは何ですか?
尾中:実は、READYFORさんにお願いする前にも、ファンドレイジングのサポートを外部に依頼していた時期がありました。ただ、僕自身経営者としてやらなきゃいけないことがたくさんあって中途半端になってしまったんです。
本来ファンドレイジングはお金のことなので優先順位は高いものの、僕たちはまず事業に注力して、目の前の助けたい人たちをきちんと助けることを重視していました。その結果、資金調達に手が回らなくなり、外部のサポートの方も困らせてしまう状況に。さらに手持ちのキャッシュが尽きかけて、資金調達の必要性が高まったところで駆け込み寺的な感じでREADYFORさんに相談しました。

―READYFORファンドレイジングサービスを選んだ決め手は何でしょう?
尾中:まずは、READYFORさんにはジェネラルなノウハウがあるということです。どこのNPOも同じだと思いますが、僕たちは特定の社会課題と深く向き合っています。だからこその弱みとして、ジェネラルなノウハウがない。でも、READYFORさんは幅広い実績と知見を持っている。僕には一人一人がすごく輝いて見えましたし、それが決め手の一つになっています。
あとはクラウドファンディングで事業に必要な足元の資金を調達しながら、ファンドレイジングの戦略設計を同時に考えることができるという点です。内部リソースでやり切るのは現実的ではないし、外部の手を借りたとしても事業と資金調達を切り分けて進めたら上手くいかないことは経験済みでしたから。僕たち団体の将来を見据えた戦略設計をサポートしながら、クラウドファンディングのスペシャリストとして伴走もしてくれるREADYFORさんには、大きな希望を感じました。
―ファンドレイジングの戦略設計の前に、3度目となるクラウドファンディングに挑戦されました。
尾中:僕たちが最初にクラウドファンディングに挑戦したのは2017年で、その時の目標金額は200万円でした。2度目は2021年で目標金額300万円。そして3度目の今回は、目標金額を1000万円に設定しました。

前回から3倍以上の金額です。内部からも厳しいのではという声が聞こえていたけれど、難しい課題の方が良い知恵が出ると思っていて。事業に必要な金額だから、ということもありますが、READYFORさんを巻き込んで大きな目標を立てて、皆で一丸となって頑張らざるを得ない状況をあえてつくりました。結果的には、895人もの方から1100万円以上の支援をいただきました。
―READYFORのサポートはいかがでしたか?
尾中:今回READYFORさんには、クラウドファンディングに伴走いただく過程で、ファンドレイジング部門の立ち上げもサポートしてもらいました。クラウドファンディングを契機にファンドレイジングチームを組成し、そのプロジェクトマネジメントやディレクションにREADYFORさんの力を借りたんです。僕らのように寄付が必要と気づき始めた段階のNPOや非営利団体は、そこに予算を立てていません。当然、専門人材を雇用することはできないので専任の担当者は不在だけれど、伴走して一緒にファンドレイジングのことを考え、アクションしてくれる。それこそがREADYFORさんのコアな価値だと感じました。

―クラウドファンディング終了直後から、得られたデータを元に戦略設計が始まりました。
尾中:今回は、そもそも戦略設計をするという前提でクラウドファンディングに挑戦していたので、戦略設計はクラウドファンディングで設定したターゲットや支援動機の仮説を検証する場でもありました。振り返ってみると、この検証が重要でしたね。
これまでは僕の直感で仮説を立て、意思決定をしていたけれど、今回はREADYFORさんが介在して仮説をロジカルに検証する尺度を示してくれた。すると、支援者のペルソナや効果的なコミュニケーションを、他のメンバーが考えられるようになりました。誰が支援者で、その人たちをどう動かしていきたいのか。これを組織の皆で考えられるようになったんです。これはファンドレイジング部門のスタートにはとても大事なことで、READYFORさんの貢献が大きかったと感じています。

―戦略設計プログラムで印象に残っていることはありますか?
尾中:課題の構造整理が印象に残っていますね。どういう構造で、ろう難聴児を取り巻く社会課題が生まれているのか。これは社会との接点も肌に感じながら考えないといけないと思っていて、当事者支援の専門的な視点だけで整理してしまうと、社会に開いた活動にならないんです。ですからREADYFORさん視点の拝借というのは随所にありました。
もともとメンバーは兼務でファンドレイジングに参加しているので時間もノウハウもなくて、深く考えることができていませんでした。そんな中、ファンドレイジングのノウハウを持つREADYFORさんがチームに入って、深いところまで一緒に考えて課題の構造が整理されるあの時間は、自社ではつくれません。最終的には課題が言語化されて共通認識が出来たし、今はそれをベースにアップデートを試みているところです。

―戦略設計後に感じた変化があれば教えてください。
尾中: 組織内部の変化を実感しています。以前は僕が営業で外に出ると「尾中さんは子どものことを考えていない」「組織を顧みない」といった意見も上がっていました。でも今、以前と同じようにステークホルダーと会うために外に出ていくと「尾中さんは私たちのためにお金を集めてきてくれている」と言われるようになりました。
僕の時間の使い方は一切変わっていません。以前と違うのは、情報共有しているかどうかです。現場のメンバーからしたら、ファンドレイジングの活動は得体の知れないもので、これまでは私から説明することもなかった。でも今は、メンバーやREADYFORさんと一緒に目標と仮説を立ててからアクションするようになりました。その後は必ず、成果を数字で報告しています。メンバーと相互理解しながら活動できるようになったことで、組織内で応援し合う関係が生まれました。組織としてファンドレイジングを「全員ごと」にできた、ということですね。

―最後に、サイレントボイスさんの事業の今後の展望について聞かせてください。
尾中:聴覚障害を取り巻く環境、特にこの領域にずっと存在する孤立の問題と教育機会の格差について、この令和の時代で明確に区切りをつけたいです。まだまだ聴覚障害のある人が選べるのは細い道かも知れません。でも、その道を走っていったら「自分らしい人生を生きられた」という人を増やしたい。人生という道を歩み始めるスタート地点は教育です。今の時代だからこそ実現可能な、孤立を解消する選択肢をつくり、一歩目を支えるために、オンライン支援に取り組んでいます。
今、おかげさまで事業を続けられて、質的な検討もやっと正面を向いてできるようになってきました。今後は先生の育成に力を入れるだけでなく、例えば資格制度を創設して先生を増やすことなども考えています。ろう難聴児の教育期の孤立を成長の時間に変えるために、オンライン支援と対面支援の両立の社会実装に本気で取り組んでいきたいです。

―同じような課題を持っていらっしゃる団体さんへのメッセージはありますか?
尾中:READYFORさんとなら、専任の担当者が不在だとしてもファンドレイジング部門を立ち上げられる可能性があります。もちろん団体側にも相応の意思と覚悟が要りますが、初めは兼務でもいいから皆で集まって、READYFORさんの知見を借りながら走り始めれば、結果はついてくると思います。
まずはクラウドファンディングを入口にすることも一案です。クラウドファンディングで今必要な資金を集めて、その結果をファンドレイジングの戦略設計に繋げていく。このアプローチは、事業と資金調達のバランスを取りながら持続可能な成長を目指している団体さんにとてもおすすめです。
取材:久田 伸(READYFOR ファンドレイジングサービス部門)
文責:鈴木 峻(READYFOR ファンドレイジングサービス部門)
撮影:其田有輝也
担当 ファンドレイザー
久田 伸
エキスパートキュレーター / 准認定ファンドレイザー
千葉大学 教育学部卒。広告会社で企画・制作、CEO室立ち上げ、人事マネージャー、サービス開発責任者を経てREADYFORに参画。ファンドレイジングサービス部門の立ち上げから、サービス開発、組織開発に従事。国立科学博物館の「地球の宝を守れ」プロジェクトでは国内クラウドファンディングにおいて最高額・最高支援者数を記録*。(*2024年7月時点)
担当 ファンドレイザー
鈴木 峻
リードキュレーター / 准認定ファンドレイザー
明治大学 情報コミュニケーション学部卒。新卒で鉄道系広告代理店に入社。ショッピングセンターや鉄道関連施設などの年間販促企画の営業、企画、実施や、鉄道沿線のJリーグクラブとのコラボ企画などにも従事。2022年にREADYFORへ入社後は、ソーシャル領域のNPOや公益法人、医療機関、大学研究機関などのプロジェクトを幅広くサポート。
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