
2025.04.18

―ファンドレイジングには、地図が必要だ。
この記事では、主に非営利団体のファンドレイジング(資金調達)を成功に導くための戦略設計の方法をお伝えします。ファンドレイジングの基本から具体的な戦略設計のステップ、実際の成功事例まで、現場で役立つ内容を詰め込みました。
申し遅れましたが、私はファンドレイジングの戦略プランナーとして、非営利団体の寄付集めをお手伝いしています。
そんな中で感じるのは、どんなに素晴らしい活動も、持続的な資金がなければ続けられないという厳しい現実。にも関わらず、多くの団体が熱意と使命感で事業に奮闘する一方、ファンドレイジングに関しては場当たり的なアクションから抜け出せず悩んでいます。それはまるで、目的地はあるのにそこへ向かう道筋が分からない旅のようです。
しかし、精度の高い「地図」があれば目的地に近づくことができますし、もし道を間違えても引き返したり別ルートを探すことができます。この「地図」に当たるのが、戦略なのです。日々、社会の課題と向き合う皆さんに、「地図の描き方」のエッセンスをお伝えできればと思います。
※本題の「ファンドレイジング戦略の設計方法」を早く知りたい方は、「ファンドレイジング戦略立案の3ステップ」までスキップしてください!

ファンドレイジングとは、主に非営利団体の資金調達活動であり、助成金や寄付を通じて団体のミッションを実現するための活動です。特に寄付に関しては、単なる「お金集め」ではなく、社会課題解決への共感と参加を促すプロセスと言えます。
この活動を専門的に担うのがファンドレイザーです。団体と支援者をつなぐ架け橋として、戦略立案から各施策の実行まで、幅広い役割を担います。(詳しくは別の記事で解説していますので、こちらをご覧ください。)
では、本題のファンドレイジング戦略の立て方について見ていきましょう。
多くの非営利団体が直面する課題は共通しています。
私がご相談を受けてきた方々の悩みをざっと大別すると、以下の4タイプに分られます。

①資金源の偏り:
「この助成金が切れたら事業を続けられないので、寄付募集にも注力しないと団体がなくなってしまいます…」
意外にも多いのが、こんなご相談です。特定の資金源への依存は、その支援が途絶えた際のリスクが大きいもの。しかし、事業の見通しの不透明さやリソース不足の問題で、なかなか資金源を分散・安定させるのは難しく、危ないと分かっていても偏ってしまいます。
②目標設定のしづらさ:
「資金はあればあるだけいいですが、具体的にどれだけ必要かは、自分たちも分からないんです」
ご要件を伺う中で、こんな風にお話いただくこともあります。社会課題の解決は長期戦で、短期間で目に見える成果を示すのが難しいケースも多いですよね。となると、いつまでにいくら必要かも、具体化しづらいものです。結果、寄付募集もアクセルを踏み切れず、いつまでも「保留」の状態が続いてしまいます。
③リソースの不足:
「ファンドレイジングに注力したいけど、担えるメンバーがいません」
専門知識とそれ相応の時間が必要なのに、専任スタッフを置く余裕がなく、結果として十分な戦略立案や実行ができない場合があります。人が先か?資金が先か?これは非営利団体の永遠のジレンマです。
④組織内部の理解不足:
「お金の話は経営陣でなんとかしてほしい」「寄付をお願いするのは気が引ける」
無関心や苦手意識が組織内にあることも。でも、成果を上げている団体のファンドレイジングは組織全体で取り組むべき活動として位置付けられている場合が多いのも事実です。
これらのお悩みの根っこには、「短期的視点」「場当たり的対応」「属人的努力」という共通点がありそうです。
短期的な視点だから、アクションが後手に回って場当たり的になる。場当たり的な対応を繰り返していると、組織の理解も得られず足並みが揃わない。その結果、得たい成果が得られず、ますます短期的な対応に追われる…そんな悪循環に陥ってしまうこともあります。

まさに、地図なしで彷徨っている状態。
このような状態から脱するために必要なのが、「戦略」です。「どこを目指すのか」から、「どうやって目指すのか」までの、一貫したシナリオがあれば、限られたリソースを最大限に活かし、支援者との長期的な信頼関係を構築することができます。
思いつきや勢いだけでは長続きしませんが、戦略があれば持続可能なファンドレイジングへの道が見えてきます。
では、「悪循環」を「好循環」に変える戦略の考え方について、さらに詳しく見ていきましょう。
戦略設計の方法についてお話する前に、「ファンドレイジングがうまくいっている理想の状態」について、少し説明させてください。
READYFORファンドレイジングサービス部門では、「ファンドレイジングの好循環モデル」というフレームワークを開発し、団体の戦略設計をサポートする時の考え方の拠り所にしています。
このフレームは、単に資金を集めるだけでなく、組織の成長とソーシャルインパクトの最大化につながる好循環を生み出すためのものです。正しく噛み合って回り始めた歯車のように、一度回り出すとこのサイクルが大きく早くなっていくはずです。

①調達(寄付者に対するアプローチの設計)
さまざまな寄付の出し手から支援を集める段階です。「どんな人に、どんなアプローチで、寄付をしていただくか?」を設計します。
②運用(お金の受け皿の設計)
調達した資金を適切に管理・運用する段階です。基金を設立したり、そこからの運用益を事業に充てるという手法もあります。「預かったお金をどう守り、育てるか」という視点が重要です。
③活用(インパクトの設計)
資金を活用して事業を実施し、社会的インパクトを生み出す段階です。「このお金で、どんな変化を生み出せたか」を可視化することが、支援者はじめステークホルダーへの説明とお礼になり、次につながります。
重要なのは考える順番。
多くの団体が1から考えがちですが、本来は3から逆算しなければ、そもそも必要な資金がどれくらいかも分からないはずです。1〜3を行ったり来たりしながら、精度を上げていくのがおすすめです。
更に、これら3つのサイクルを支える重要な基盤として、以下の2つがあります。

④パブリックリレーションズ
単なる情報発信ではなく、支援者との信頼関係を育む継続的な対話の仕組みです。支援者が社会変革の一員として参加している実感を持てるようなコミュニケーションが重要です。
⑤組織基盤の強化
どんなに優れた仕組みがあっても、それを実行する人とチームがなければファンドレイジングは続けられません。特に重要なのは、ファンドレイジングを「組織全体で取り組む文化」として定着させること。
一朝一夕にはいきませんが、組織が整い始めるとサイクルが加速します。これらが機能すると、「出したいインパクトが明確になる→支援者へのコミュニケーションが明確になる→調達が増える→事業の成果が出る→チームに効力感が芽生える」といった好循環が生まれます。
さあ、いよいよここからが本題です。
「ファンドレイジングの地図」をどうやって描いていくのか、3つのステップでご説明します。
①現在地はどこか?(現状分析)

まず自分たちの組織がどこにいるのかを正確に把握することから始めます。
財務状況の分析:
過去数年間の収支構造を分析することで、財務面での強みと弱みが見えてきます。また、財務構造を事業と紐づけることで、「事業収益でも、助成金でもなく、なぜ寄付が必要なのか?」を再認識することにもつながります。
支援者の分析:
現在の支援者層の特徴や寄付行動を分析することで、どのような方々が応援してくれているのか、その特性や傾向が見えてきます。アンケートを取ったり、数名の支援者にインタビューをすることで、一気に解像度が上がります。
リソースの棚卸し:
ファンドレイジングに割ける人員、時間、予算、スキルを確認します。実際は「リソースがない」と結論づくことがほとんどですが、経営陣のミッションや他メンバーの業務を棚卸しすることで、意外と捻出できるリソースを発掘できることがあります。
② ゴールはどこか?(目標設定)

明確な目標を設定することが重要です。具体的に何を達成したいのかを決めます。
定性的な目標:
いわゆる「理想の状態」を言葉にします。自団体が、数年後にどんな存在になっているといいか?事業の受益者が、あるいは社会が、数年後にどんな風に変化していると嬉しいか?などイメージを広げてみてください。
定量的な目標:
ファンドレイジングの定量的な目標は最終的に集めたい寄付額となります。ただ、これも分解してみることで初めてリアリティが出てきます。例えば、最終目標額も、何年で集めたいのかによって年間目標に分解できますし、更には、寄付者数×寄付単価にも分解できます。こうして、徐々に解像度を高めていきます。
③どうやって向かうのか?(実行計画の策定)
現状から目標までの道筋を設計するステップです。目標に辿り着くために、現状を変えるために、「具体的に何を実行するのか?」を決めていきます。

ターゲット設定:
誰が自団体の支援者になり得るのか。既存支援者と潜在支援者を検討します。ターゲットによって、次のコミュニケーション設計が変わるので重要なポイントではありますが、支援者が増えていく中でアップデートされる部分も大いにあるため、まずは「仮説」を持つことが大切です。
コミュニケーション設計:
ターゲットである支援者に対して、誰が、何を、いつ、どのようなメッセージで伝えるかを計画します。コミュニケーションは、「支援者との接点=チャネル」と「支援者への呼びかけ=コンテンツ」の掛け算です。これらを一つひとつ企画していきます。
アクションプラン策定:
実行する施策をカレンダーに並べてアクションプラン(計画表)に落とし込んでいきます。まずは1年後の目標に合わせて、1年分のアクションプランを作ってみるといいでしょう。また、つくっただけで満足して形骸化してしまわないように、どのタイミングで計画を見直すかも予め決めておけるとよいです。
大切なのは、たとえ仮説であっても、まずは一通り戦略を完成させることです。
「完璧な地図がないから第一歩が踏み出せない」と実行を先延ばしにしてしまうと、その先には「悪循環サイクル」が身を潜めている可能性があります。
多少は粗くても最低限の地図があれば、ファンドレイジングは始められます。実行過程で成功と失敗を通じて、地図の解像度は自ずと上がっていくものです。考えながら前に進む。そのために上記3つのステップを「まずやってみる」ことが大切です。
ここからは、私の所属するファンドレイジングサービス部門で戦略設計のお手伝いをして、ファンドレイジングが回り始めた2つの団体の事例をご紹介します。
事例① 助成金依存からの脱却:組織全体を巻き込んだビジョン主導の変革

<団体プロフィール>
複数の学童クラブを運営するNPO法人。新しい事業として、宿泊を伴う子どもの預かりサービス「子どもショートステイ」を展開しており、この事業を拡大したいと考えていました。
<当時の課題>
ところが、「子どもショートステイ」の助成金が満了し、事業継続の危機に。これまで助成金と行政からの受託で事業を拡大してきたため、寄付集めのノウハウもリソースもない状況でした。
<戦略設計でしたこと>
手始めに団体のビジョンと事業を棚卸ししてみると、実は団体内部でも「どこに向かうために何をするのか」の認識が揃っていないことが分かりました。
そこで、既存事業と新規事業を繋ぐビジョンをキャッチフレーズ化し、全体を整理。その内容を軸に、ファンドレイジングの戦略を組み立てていきました。

次に、コーポレートサイトのリニューアル、全職員を集めた総会でのビジョン共有を実施。団体内外の理解浸透を進めました。基盤が整ったところで、団体として初めてのクラウドファンディングに挑戦し、続けてマンスリーサポーター制度の立ち上げと、法人寄付の強化を行いました。
<結果>
クラウドファンディングでは目標額の134%を達成。また、マンスリーサポーターの広報活動を行う過程で、2つの企業から法人寄付もいただきました。
最大の成果は、団体内に初のファンドレイジングチームが誕生したことです。代表とCFOを含めて、団体内からまずは兼務でアサインしました。活動の認知度も高まり、子ども家庭庁からの視察など、問い合わせも増加しています。
団体の代表は「学童のいち事業者だった自分たちが、社会課題解決の団体として生まれ変わった」とお話してくださいました。
事例② 潜在的な母校愛を資金力に変える:小さな成功から始まった寄付システムの再構築

<団体プロフィール>
関西にある私立の男子進学校。70年以上の歴史があり、累計1万人以上の卒業生が、多方面で活躍しています。
<当時の課題>
OBの母校愛が強い一方で、寄付活動の成果が十分に上がっていませんでした。半年に一度、寄付の趣意書を郵送するだけの一方通行のコミュニケーションに留まり、寄付の呼びかけ自体を知らないOBも多い状況でした。寄付集めの目標や方針が明確でなく、何から始めるかも決めきれない状態が続いていました。
<戦略設計でしたこと>
まず小さくても成功体験を得るために、中学野球部の全国大会出場の遠征資金を募るクラウドファンディングを実施。最小限の広報活動でも300万円以上の寄付が集まり、手応えを感じられました。これをきっかけに、今まで内部に蓄積されてきた膨大な寄付データを分析し、寄付活動全体の改善方針を検討。寄付活動の全体を束ねるコンセプトを開発し、それに紐づいて一つひとつの寄付メニュー、広報施策を見直しました。

<結果>
クラウドファンディングではOBの潜在的な支援意欲の高さを確認できました。「自分の部活でもやってみたい」という声が学内から多数上がり、ファンドレイジング強化の機運が高まりました。新年度に合わせてWEBサイト内の寄付ページの大幅リニューアルも完了。戦略設計を通じて「目指すべき場所とそこへの道筋がはっきり見えた」と担当者はお話しています。
どちらの団体もファンドレイジングの改革はまだ始まったばかりです。しかし「現在地はどこか?」「どんなゴールに向かうのか?」「どうやって向かうのか?」を可視化して団体内で共有できたことで、やるべきことが明確になり、寄付者からの反応に手応えを感じられています。
まさに、「好循環サイクル」の一周目が回り始めたのです。
ファンドレイジングの戦略設計に「正解」はなく、それぞれの団体の特性や状況に合わせた「最適解」があります。何よりも大切なのは、皆さんが自分たちの活動の意義を信じ、自分たちらしくいられること。そして、自分たちと周りの応援してくれる人たちを信じられることです。
ファンドレイジングは、完璧な地図を描くことではなく、まずは一歩を踏み出すことから始まります。
繰り返しになりますが、最初の地図は粗くても構いません。実際に歩き始めることで、予想外の発見があり、その経験を通じて地図は徐々に精緻になっていき、団体のチームワークも強くなっていきます。
皆さんが社会課題の解決という冒険に向けて一歩を踏み出せるよう、この記事が少しでもお役に立てば幸いです。READYFORはこれからも皆さんの挑戦を応援していきます!

【お問い合わせ先】
READYFORファンドレイジングサービスでは、ファンドレイジングの戦略設計コンサルティングを提供しています。団体のミッションとビジョンを理解した上で、現状分析から戦略立案、そして実行伴走まで、皆さんの持続可能なファンドレイジングの仕組みづくりをサポートします。無料相談から承りますので、お気軽にお問い合わせください!
担当 ファンドレイザー
久田 伸
エキスパートキュレーター / 准認定ファンドレイザー
千葉大学 教育学部卒。広告会社で企画・制作、CEO室立ち上げ、人事マネージャー、サービス開発責任者を経てREADYFORに参画。ファンドレイジングサービス部門の立ち上げから、サービス開発、組織開発に従事。国立科学博物館の「地球の宝を守れ」プロジェクトでは国内クラウドファンディングにおいて最高額・最高支援者数を記録*。(*2024年7月時点)
【お知らせ】サービスサイトとダウンロード資料を大幅アップデートしました!
“PR”の力でイシューレイジングを推し進める。READYFORで挑む、本質的な社会変容
外部との伴走で見えた「関西大学らしさ」。組織を動かすファンドレイジング戦略
優先すべきは事業か、資金調達か。Silent Voice、ファンドレイジング部門立ち上げの軌跡
資金調達の前にやるべき事がある。merry attic、事業が躍進した1年の原点とは。
ファンドレイジングの基礎を学べるナレッジ動画を一挙5本公開!
記事一覧へ