
2026.08.03

日本の吹奏楽界を牽引し続けるプロ楽団、東京佼成ウインドオーケストラ。一般社団法人としての独立という大きな転換期の中で、彼らはクラウドファンディング、そしてその先にある「ファンドレイジング(資金調達・寄付集め)の戦略設計」へと踏み出しました。
「単にお金を集めるだけでなく、団体の存在意義を見つめ直す時間になった」と語るのは、ホルン奏者でもある専務理事の堀 風翔(ほり ふうか)さん、広報の荻沼 美帆(おぎぬま みほ)さん、営業の森 ゆかり(もり ゆかり)さん。READYFORの伴走支援プログラムを経て、楽団内にどのような変化が生まれたのか。その軌跡をじっくりと伺いました。(写真左から:森さん、堀さん、荻沼さん)

─東京佼成ウインドオーケストラの皆様とREADYFORとの関係は、2023年のクラウドファンディングのご挑戦から始まりました。目標金額800万円に対して、13,291,540円という大きなご支援が786人もの方々から集まりました。まずは、はじめてクラウドファンディングに挑戦された当時の思いを教えてください。
堀: 一番のきっかけは、吹奏楽愛好家に「吹奏楽ポップス」の代名詞として長年愛されてきたCD・楽譜シリーズ「ニュー・サウンズ・イン・ブラス(以下、NSB)」が、コロナ禍の影響で「このままなくなってしまうのではないか」という強い危機感でした。
NSBはもともと我々だけで自主制作していたものではなく、音楽関係企業の方々と協力して作ってきたものです。世界的にもCDが売れにくい"CD不況"で大手レコード会社でも大きな予算のかかる作品制作を控える傾向が強くなる中、2020年に訪れたコロナ禍によって、コンサートはもとよりスタジオレコーディングも“密”になるとの理由から、NSBに関わる活動を中止せざるを得なくなりました。
この伝統あるシリーズがこのまま立ち消えになってしまうのはあまりにもったいない。「自分たちにまず何ができるのか」と、何とか復活させる道を探る中で、クラウドファンディングという手段に行き着きました。

─結果として、目標を大きく上回る大成功となりました。たくさんの応援コメントも寄せられましたが、率直にどう感じられましたか?
堀: 正直、驚きました。自分が想像していた以上に、多くの人がNSBを、そして東京佼成ウインドオーケストラを認知し、応援したいと思ってくださっているのだと、ありがたい気持ちでいっぱいになりましたね。
応援コメントに「高校生の時に演奏した思い出の曲です」「このシリーズが本当に大好きです」と具体的な曲名を挙げて書いてくださるのを見て、この長いシリーズが日本の吹奏楽文化の一部となり、愛好家の皆様の思い出の大きな一部になっているんだということを、何よりも強く実感しました。
─ 当時のプロジェクトに伴走させていただきましたが、あのクラウドファンディングをきっかけに、楽団全体のファンドレイジングに対する意識にも少し変化が生まれたように感じます。
堀: そうですね。プロジェクト単位で支援を募るクラウドファンディングをやったからこそ、見えてきた課題がありました。「どうすればご寄付をもらえるか」よりも、「我々が社会や吹奏楽ファンの皆さんに、一体何を提供し、何をお返しできるんだろう」という本質的な問いを、自分の中で考える時間がすごく増えたんです。単発のプロジェクトではなく、楽団の運営全般を中長期的に支援していただけるような仕組み作りが必要なのではないか、と。

─当時は、楽団としても大きな独立のタイミングを迎えられる中で、新たに「賛助会員制度」を立ち上げ、1年あまり経った頃でしたよね。
堀: はい。2022年に母体の法人から独立して一般社団法人を立ち上げた当時が、一番「楽団の継続がままならないかもしれない」という危機感が大きかった時期でした。そのタイミングで、継続的な支援を受けるための受け皿として「賛助会員制度」を立ち上げたんです。
しかし、当時はオフィスの引っ越しなども重なり、本当に目まぐるしく大変な時期で……。戦略を緻密に設計したというよりは「戦略なき戦術」というか、とにかく受け皿を作って「独立するから応援してください」と記者発表でお伝えするのが精一杯でした。そのため、「寄付をいただけるのはありがたいけれど、私たちはそれに対して何をお返しできているのか」を明確に説明できず、自分の中でずっとモヤモヤが残ったまま、時間だけが過ぎてしまいました。

─そのモヤモヤを解きほぐすために、数ヶ月にわたる「ファンドレイジング戦略設計プログラム」が2025年冬からスタートしました。理事長をはじめとする経営陣の方々と、現場の事務局メンバーである皆様が一緒になってディスカッションを重ねていただきましたが、特に印象に残っているシーンはありますか?
堀: 私は、やはり「ステークホルダーに向けた寄付メッセージの策定」の場ですね。ずっと抱えていたモヤモヤの原因は、まさにこれが言語化されていなかったことだと気づきました。これまでは「とにかく演奏会を全力でやって、その過程で応援の輪をつくろう」といった、少し抽象的な表現に留まっていて。
プログラムの中で、勝川理事長や八反田常務理事も加わり、「そもそも我々は、プロの吹奏楽団としてどうあるべきか」という原理原則的な立ち位置となる中核を、それぞれの目線から共有し合い、ひとつの言葉に向かって議論できたことは、本当に素晴らしい時間だったと思います。
荻沼: 普段から経営陣の考えていることを個別に立ち話や面談で聞く機会はありましたが、こうしてメンバー全員が揃って濃い話を共有できたのは初めてでした。「あ、そういう風に思っていたんだ」とお互いの想いを知ることができ、まさに「膝を突き合わせて話す場」をREADYFORさんに作っていただけたことが、すごく大きかったです。これまでは「経営の深い議論をしよう」と言い出す口実もなかなかありませんでしたから。

森: 私は営業として入社して間もないタイミングで、このプログラムに参加させていただきました。入社当時は、営業として何を指標にするか悩む日々も正直多くて。一般的な営業職だと「いくら売上を作ってこい」という数字目標が明確ですが、当時は楽団として営業セクションがそもそもないため、指標を持ち合わせていなかったんです。
しかし、今回のプログラムを通じて、これまで見えづらかった経営陣が描く、具体的なありたい姿や数字的指標がクリアに共有されたので、何のために動くべきなのか、現場レベルの解像度が上がったことが非常に良かったです。
堀: 目標というものは、それが正しいか間違っているかよりも「まず存在すること」自体が大切なんですよね。間違っていても、ないよりはあった方がいい。今回そこが定まったことで、具体的な寄付活動に向けての足並みが揃いました。

─プログラムは全10回にわたり、隔週でお打ち合わせをさせていただきましたが、ファンドレイジングの枠を超えて何か組織の力になったと感じる部分はありますか?
堀: 「プロジェクトを進める力」そのものがとても勉強になりました。ファンドレイジングの戦略設計という漠然とした大きなゴールに対して、それを分割し、ゴールから逆算して進めていく。各回の目的と論点を明確に示してくれるREADYFORさんのフレームワークを間近で見られたことは、うちの事務局としての弱点・課題解決力を補い、力をつける良い経験になりました。
荻沼: 外部の視点が入ってくださったことで、自分たちが内々では「当たり前」だと思っていたことが、実は外から見ると、かけがえのない強みとなることを教えていただけたのが新鮮でした。内部にいると気づけない価値に光を当てていただき、本当にたくさんの気づきがありました。
それに、READYFORの担当者さんがクラウドファンディングの時から私たちの熱量を知って伴走し続けてくれたことも、大きな安心感に繋がっていました。事務局メンバーだけでやっていたら、日々の業務の忙しさを理由に絶対「今は無理です」と甘えが出ていたと思います。ビシバシと引っ張ってくださりつつ、期限を決めてモチベーションを維持してくれる工夫にとても助けられました。
森: 日々の業務に追われていると、どうしてもタスクばかりに目が向いてしまい「何のためにやっているのか」という本質を見失いがちになります。楽団としての本質的な部分を全員で確認し合えたという意味で、本当に皆様に助けていただいたなと感じています。

─プログラムを終えられ、今後は事務局内、そして楽団全体への共有フェーズに入っていくかと思いますが、現在の手応えや意気込みはいかがでしょうか。
堀: すでに全10回のプログラムが終了した報告は楽団全体で行っていますが、今後は事務局内で全体共有会を予定しています。リアルタイムでの参加が難しいメンバーにもアーカイブで残し、オープンに共有していく方針です。
これまでは「(プログラムに参加していた3人が)ずっと何か打ち合わせをして頑張っているな」という状態だったと思いますが、「なぜ私たちにとってファンドレイジングがこれほど重要なのか」「どんなファンドレイジングを実現したいのか」という意識を、全員が持てるように伝えていきたいですね。同じ未来を見つめられるようになれば、自ずと協働が加速していくと信じています。

取材・文責:鈴木 峻・村山 藍里(READYFOR ファンドレイジングサービス部門)
撮影:戸谷 信博
担当 ファンドレイザー
鈴木 峻
リードキュレーター / 准認定ファンドレイザー
明治大学 情報コミュニケーション学部卒。新卒で鉄道系広告代理店に入社。ショッピングセンターや鉄道関連施設などの年間販促企画の営業、企画、実施や、鉄道沿線のJリーグクラブとのコラボ企画などにも従事。2022年にREADYFORへ入社後は、ソーシャル領域のNPOや公益法人、医療機関、大学研究機関などのプロジェクトを幅広くサポート。
担当 ファンドレイザー
村山 藍里
リードキュレーター / 准認定ファンドレイザー
同志社大学法学部を卒業後、メディアアプリ会社にて広告営業からキャリアをスタート。事業開発部において商品開発や営業組織の立ち上げに携わったのち、EC会社での人事職を経て、2022年にREADYFORへ入社。美術館・博物館、神社仏閣、劇団・楽団、伝統芸能、芸術祭、文化財など、文化領域に関わるプロジェクトや団体への伴走実績が豊富。
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