
2025.03.07

私たちは、勝つために寄付を集めているーー
人々の生活と企業活動に多くの制限があったコロナ禍の2020年。
プロサッカークラブの鹿島アントラーズは、ホームタウンの一つである鹿嶋市と共に業界に先駆けて「ふるさと納税型クラウドファンディング」に挑戦。サポーターをはじめ多くの人から支援が寄せられ、約1.3億円の資金を集めた。
その後も毎年ふるさと納税型クラウドファンディングを実施し、クラブ強化のための投資を実現している。その規模は、2024年度で累計約6.1億円、支援者延べ約1万人に達した。READYFORは初年度からサポートに入り、共に実績を積み重ねている。
行政との連携など、ステークホルダーが多岐にわたるふるさと納税型クラウドファンディング。実現の背景に何があったのか?継続の秘訣とは?鹿島アントラーズ行政連携チームの武知健人さんに話を伺った。

―鹿島アントラーズは、2020年から5年連続でふるさと納税型クラウドファンディングを実施しています。そのきっかけや具体的な資金使途について教えてください。
武知:最初はちょうどコロナ禍で、資金面で経営が厳しい時期でした。何か解決方法はないかと考えていたところ「ふるさと納税型クラウドファンディングというものがあるらしい」「まずはやってみよう」という話になりました。
<ふるさと納税型クラウドファンディングとは?>
ふるさと納税型クラウドファンディング(ガバメントクラウドファンディング / 通称:GCF)とは、その名の通り、クラウドファンディングにふるさと納税の制度を組み合わせた手法。ふるさと納税として実質2,000円で支援でき、クラウドファンディングとしてプロジェクトの資金使途が明確化されているため、支援者が自らの意志で税金の使い道を決められるのが特徴です。
そこから直近の2024年も含めて5回実施していて、集まったお金は大きな資金が必要な設備のアップデートなどに使わせていただいております。
<これまでのプロジェクト>
2020年|クラブ運営
コロナ禍の経営危機により、クラウドファンディングに初挑戦。
2021年|アカデミーフィールド(専用グラウンド)建設
アカデミーの専用グラウンドを作り、若手選手の強化に貢献。
2022年|雨天時の練習環境改善
雨天時にも練習ができるよう、人工芝の敷設やトレーニングジムの拡充を実施。
2023年|カフェテリア改修
栄養管理されたメニューの提供など、練習後の選手の食事環境を改善。
2024年|グラウンドの土壌改善
選手のケガを防止すべく、抜本的な土壌改善のためにプロジェクトを実施。

―コロナ禍の1回目から、2回目以降も継続しようと意思決定された理由は何ですか?
武知:サポーターの皆さんのご支援が、分かりやすくカタチになるところに魅力を感じたからというのが理由の一つです。例えば2023年のクラウドファンディングでは、ご支援がカフェテリアに形を変え、それが選手の食事サポートに繋がりました。クラブを応援してくれるサポーターの皆さんの支援が、グラウンドやトレーニングジムといった目に見えるモノに変わっていく。支援者の方からは「選手に直接貢献できているような感覚がある」という声も寄せられました。そういった声が、継続する原動力になっています。
基盤となるクラブ運営は、試合のチケットやグッズの購入といった日々のサポーターの皆さまの活動によって支えられているのです。それに加えて、支援者がよりダイレクトに選手やクラブへの貢献を実感できるのは、クラウドファンディングの価値だと思います。

―当時はふるさと納税型クラウドファンディングを選択しているクラブは少なかったと思います。その中でアントラーズがふるさと納税型をスムーズに実施できた要因は何ですか?
武知:アントラーズはホームタウンが5市、フレンドリータウンが13市町村あります。これはJクラブ全体で見ると少ない数なんです。他のクラブは県全体がホームタウンだったりするので、どこかの市にピンポイントでお願いするようなやり方はやりづらい。ですがアントラーズはホームタウン5市だけで日頃からの連携も多いため、相談をしやすかったのはありますね。
あとは、これまで30年クラブが築き上げた各行政との関係値があったのも大きいです。それらが重なったおかげで、ふるさと納税型クラウドファンディングが実現しました。

―日々の地域との関係が、共に大きな挑戦をする信頼につながっているのですね。
武知:ホームタウン5市を合わせても人口28万人に満たない小さな地域です。関係性をおろそかにした瞬間にクラブが成り立たなくなってしまう状況でもありますから、その部分は常に意識し続けています。これはJリーグの理念が「地域密着」だったという部分もあるのですが、アントラーズはそれに輪をかけて「地域を大切に」ということを意識してきました。行政がなくなればアントラーズもなくなる、まさに運命共同体のような関係です。
―アントラーズさんは「地域密着」で各行政との関係性を強固なものにしてきましたが、行政との関わりには課題を感じている団体も少なくありません。ふるさと納税型クラウドファンディングを検討する方に向けて、アドバイスはありますか?
武知:ふるさと納税型クラウドファンディングは行政との連携が必要不可欠ですので、関係性を深めていくことができるというのは良いところだと思っています。「すでに関係があるから実施できる」とも言えますが、「これから関係を強くするために実施する」という考え方もあるはずです。地域や行政とこれまで以上に関係を深めていかないといけないと考えている方にとっては、むしろ提案のしがいがあるのではないでしょうか。
―支援者側が享受できるメリットについては、いかがでしょうか?
武知:支援者側からすると、やはりふるさと納税の税控除が大きなメリットですよね。税控除を使って、実質負担2,000円で好きなクラブを応援できる。これが動機になって、寄付をするという行為へのハードルを下げてくれているのかなと感じます。毎年のように支援を続けてくださっている方も数百人いらっしゃいます。「ふるさと納税といえばアントラーズ」という認識が、徐々に浸透してきている手応えがありますね。

―そもそも、サッカークラブの経営の収入源にはどのようなものがあるのですか?
武知:収入源でいうと、大きく3つの柱があります。1つ目はパートナー収入で、いわゆる広告費です。2つ目はグッズ収入、3つ目がチケット収入です。私たちはこの3つを「フットボールビジネス」と呼んでいますが、これらは試合の有無や戦績によって左右されます。そこでアントラーズは「ノン・フットボールビジネス」という別の柱を確立しようとしています。クラウドファンディングは、クラブを安定的に成長させるための施策の一つとして位置付けています。

―収入源を多角化するということの必要性は、クラブが置かれている環境の変化によって生まれたものなのでしょうか?
武知:フットボールビジネスはどうしても戦績に左右されます。チームの成績が悪くて収入が減れば、弱体化も進んでしまう。それでいいはずがない。だから、クラブが置かれている状況に左右されない、結果がついてこないときでも稼げる力を持っておこうという考え方です。
―アントラーズを強くするために、フットボール以外の部分でも収益が必要であると。
武知:アントラーズが掲げる「全ては勝利のために」というクラブミッション、ここは全ての事業でブレません。ノン・フットボールビジネス、クラウドファンディングも、全ては勝利のための取り組みなのです。
―支援者の応援コメントからも、クラブのスタンスや想いが伝わっている印象を受けます。
武知:ありがたいことに、私たちもクラブとしての想いが浸透し始めているように感じています。まだまだ伝わりきっていない部分もありますが、プロジェクトを継続していくことで、だんだんと理解を広げてこられたのだと思います。
―READYFORとはクラウドファンディングが終わるごとに分析会を行っていますが、蓄積されたデータから感じられる変化はありますか?
武知:毎回ご支援いただけるリピートの支援者の方も多くなっていますし、コメントに「応援」というキーワードが増えています。プロジェクトを続けてきたことで、私たちもサポーターの皆さんの熱い想いを改めて実感しているところです。

―ここまでプロジェクトをご一緒させていただいたREADYFORのサポートについては、いかがでしたか?
武知:とても助けられています。私たちはプロスポーツクラブの運営がメインになっているので、ファンドレイジングやクラウドファンディングには全く知見がありません。そのため、自分たちでは気づけないことを事前にインプットしてくれた上で実行できるというのは、非常にありがたいことです。私たちの場合は5年分の蓄積されたデータを分析して助言をいただけるので、説得力があります。
ふるさと納税型クラウドファンディングであったり、プロスポーツクラブならではの悩みに関してもノウハウを持っていますよね。ちょっと相談をしたら、他クラブの事例を含めてすぐに紹介してくれる。それだけの知見があるのは、READYFORさんの強みではないでしょうか。
―ありがとうございます。特に印象に残っているエピソードはありますか?
武知:アントラーズの試合日にクラウドファンディングの告知でブースを出すことになった時、プロジェクトにずっと伴走してくれている担当の方が「手伝いに行きます!」と言って当日駆けつけてくれました。現場で誰よりも前に出てサポーターの皆さんと話している姿を見たら、もう、本当に素晴らしいなと。自分事として捉えてくれているんだなと感動しました。
―READYFORが提供しているファンドレイジングサービスは、現場に寄り添うことも日頃からすごく大事にしているので、そのような評価をいただけるのはとても嬉しいです。
武知:長くお付き合いすることで、チームワークも高まっていると感じています。

―最後に、プロジェクトの今後の展望や次の挑戦について教えてください。
武知:「アントラーズの未来をみんなで」というコンセプトで続けてきたプロジェクトですが、今後はこのプロジェクトをさらに多角化させ、ふるさと納税型クラウドファンディング以外のプロジェクトも打ち出していけるといいですね。サポーターの皆さんと近い距離で、みんなで一緒にアントラーズの未来をつくっていくようなプロジェクトにしていきたいです。
―その構想の中で、READYFORに期待することはありますか?
武知:私たちも経験を重ねて、にわか知識のようなものがついてきて、仮説を立ててみるのですが、それを実行して結果を確認して、じゃあ次どうする?と、PCDAを回すようなやりとりができると嬉しいです。ただ言われたことをやるというよりは、より高い次元で実現できるようにしていけたらと思っています。

本インタビューの後に、2023年のクラウドファンディングで改修を実現したカフェテリアを見学させていただきました。

選手の食生活を支えるカフェテリア。

厨房が広くなり、試合や練習終わりの選手にすぐに食事を提供できるようになりました。選手のコンディションを整えるために、クラブとして栄養面からサポートしています。

内装にもこだわり、選手同士で食事を楽しめる場所に。いつもジーコさんが見守っているという緊張感(?)もあるそうです。
出入口には、支援者の方の応援コメントが飾られています。
ふるさと納税型クラウドファンディングを通じて、クラブ・自治体・支援者の三者がつながっていることを実感できる、素敵な空間でした。
取材・文責:久田 伸(READYFOR ファンドレイジングサービス部門)
撮影:戸谷信博
担当 ファンドレイザー
久田 伸
エキスパートキュレーター / 准認定ファンドレイザー
千葉大学 教育学部卒。広告会社で企画・制作、CEO室立ち上げ、人事マネージャー、サービス開発責任者を経てREADYFORに参画。ファンドレイジングサービス部門の立ち上げから、サービス開発、組織開発に従事。国立科学博物館の「地球の宝を守れ」プロジェクトでは国内クラウドファンディングにおいて最高額・最高支援者数を記録*。(*2024年7月時点)
担当 ファンドレイザー
佐藤 佑亮
キュレーター / 准認定ファンドレイザー
新卒で日系コンサルティング会社へ入社し、プロジェクトマネジメントの実行支援に従事。その後、大手ECモールの事業戦略部門にて中長期の戦略策定や新規事業推進としてライセンスビジネスを推進し、2023年にREADYFORへ参画。スポーツ領域のプロジェクトを中心に、子ども支援や博物館、大学のプロジェクトなど幅広く伴走支援をしている。
【お知らせ】サービスサイトとダウンロード資料を大幅アップデートしました!
“PR”の力でイシューレイジングを推し進める。READYFORで挑む、本質的な社会変容
外部との伴走で見えた「関西大学らしさ」。組織を動かすファンドレイジング戦略
優先すべきは事業か、資金調達か。Silent Voice、ファンドレイジング部門立ち上げの軌跡
資金調達の前にやるべき事がある。merry attic、事業が躍進した1年の原点とは。
ファンドレイジングの基礎を学べるナレッジ動画を一挙5本公開!
記事一覧へ