
2024.10.23

かつて青春の日々を過ごした母校に、何らかの形で恩返しがしたいー。
そんな想いを持つ人は少なくないはず。では、卒業後も母校との接点を持ち続けている人はどれほどいるだろう。最後に母校に関わったのが遠い昔のことだという人もいるのではないだろうか。
卒業生に対して、母校への寄付の呼びかけをするということは、卒業生が母校と再びつながるきっかけを提供するということ。いわば「母校と卒業生のつながりのリデザイン」だ。そこには、関係人口の増加という意味でも、財務基盤の強化という意味でも、大きなポテンシャルがある。
しかし言うは易しで、実現には相応のエネルギーが求められる。学校の事務局も日々の業務に追われているため、ファンドレイジングの方針や目標が曖昧な場合もあるし、十分なリソースを割くのも難しいだろう。子どもの人口が減り続ける社会において、長期的に見れば重要だと認識していても、どうしても後回しになってしまうのも頷ける。
今回、READYFORファンドレイジングサービス部門が寄付事業全体の戦略設計に伴走した京都の名門私立、洛星中学・高等学校もそのような状況だった。
戦略設計を終えた今、事務局の梅木将大氏・田邊篤志氏は「現状がクリアになり、登る山の全容も道筋もはっきりした」と語る。
この記事では、クラウドファンディングからプロジェクトがスタートした背景や、戦略設計のプロセス、そこで得た気づき、学校法人ならではの寄付集めのポイントなどを事務局のお二人に伺った。

―学校として寄付活動を根本的に見直すというのは、大きな決断だったと思います。実施に至るまでの背景について、改めて教えていただけますか?
田邊:毎年夏に「洛星・夏の集い」という同窓会があり、今年は約400人が集まりました。実は私自身も洛星の出身で、卒業してから10年以上経った今でも当時所属していたソフトテニス部のメンバーとよく集まります。
こんな話からも伝わるかと思いますが、本校は母校愛のある方々がとても多いんです。ただ、その割には毎年の寄付活動の結果が奮っていませんでした。事務局のメンバーとしては、まだまだこんなものではないと可能性を感じていたものの、どうやって改善すれば良いか分からないというのが課題だったんです。

梅木:恥ずかしながら、READYFORさんと取り組む以前は、半年に一度のペースで寄付の協力を求める趣意書をOB宛に郵送しているだけでした。半ば、自動的な作業しかしていないという状況です。あとで分かったことですが、寄付の呼びかけがあること自体を知らないOBも多かったようです。
田邊:寄付集めの目標や戦略をしっかり設計して、卒業生の熱量が寄付という形でしっかりと在校生に還元される状況にしたい。そんな思いで今回ご相談しました。
―そんな中、いきなり戦略設計に入らず、まずは学校として初のクラウドファンディングに挑戦いただきましたね。どのような意図があったのでしょうか?
梅木:ちょうどご相談したタイミングで、中学野球部の全国大会出場が決まりました。遠征費用など足元で必要な資金もありましたし、部活のOBからも応援の声が届いていたので、これは寄付を集める良い機会になるのではと思ったんです。
そこで、ファンドレイジング全体の戦略設計の前に、一度クラウドファンディングをやれないかとご相談したところ「ぜひやりましょう!そこで集まったデータを戦略設計に活かせますね」と、前向きに受け止めていただいて、前哨戦としての実施が決まりました。

―結果的に300万円以上の寄付が短期間で集まり、OBの方の熱量を再確認できましたね。野球部のクラウドファンディングが成功して、学校内の反応はいかがでしたか?
田邊:「自分の部活でもやってみたい」という声がたくさん届きました。反響が大きく、これからファンドレイジングを強化していくという雰囲気づくりにも一役買ったと思います。
梅木:当然ながら支援者は野球部の関係者がほとんどだったのですが、数%は関係者以外の方からの支援もあり、驚きました。
私も生徒の遠征に同行することがあるのですが、期間中に支援者から届いた応援メッセージを印刷してみんなに配ったんです。それが彼らのやる気にもつながったと思いますし、事務局のメンバーも寄付額が毎日増えていくのを眺めていて、すごいなすごいなと熱気が高まっていました。

―クラウドファンディングによって支援者のデータも集まりました。
田邊:どんな人が寄付してくださっているのかが具体的に見えましたし、今までアプローチできていなかった方々ともつながれたと思います。
これまで寄付のお願いは、趣意書の郵送という「一方通行のコミュニケーション」しかしていなかったのが、ネットを通じてリアルタイムでコミュニケーションできるようになったのは大きいですね。
おかげで私たちも寄付をいただいてる実感が得られましたし、「ちゃんとお返ししていかねば」と気が引き締まる思いでした。
―そんなクラウドファンディングを経て、戦略設計がスタートしました。現状把握から、目標設定、支援者分析、そして寄付活動全体の改善方針と、3ヶ月に及ぶ議論は多岐に渡りましたが、特に印象に残っていることはありますか?
田邊:寄付メニュー全体の整理と、それを束ねるコアメッセージを考えていただいたのが印象的でした。
まず支援者を分析して、それぞれのペルソナに沿う形で寄付メニューを組み替えていく発想は、ファンドレイジングのプロではない私たちからは生まれないものです。個人的に思い浮かべるペルソナ像はなんとなくあったのですが、かなり解像度が上がったし、支援者ごとにどんなアプローチをすべきかも明確になりました。
さらに、いくつかある寄付メニューのコミュニケーション方針を定めながら、全体の傘となるコンセプトをまとめるという流れも新鮮でした。

田邊:最終的に「あなたのご支援が、洛星を照らす。」というメッセージが生まれました。洛星は「生徒が自ら輝ける力を養う」という教育方針を掲げていて、READYFORさんにもお伝えしていたのですが、それを受けて「生徒が輝く存在ならば、OB=支援者はそんな生徒を照らす存在なのでは?」というアイデアを出してくださったんです。
現役の生徒と、卒業したOBの間にそんな関係が生まれると美しいなと思いましたし、寄付活動で目指している理想の姿が一言に凝縮されていると感じました。READYFORさんにお願いして良かったなと、一番思った瞬間です。
梅木:私が印象的だったのは、支援者分析の過程で実施したアンケートによって「寄付をしない理由」が明らかになったことです。いくつもの示唆があったのですが、一つの要素として「案内がなかったから」「知らなかったから」が挙がりました。
そんな基本的なこともできていなかったのが現状なんだと、改めて認識しました。しっかりと情報を届ける。お願いをする。そういう、基本の「キ」が土台にあるんだなと思いました。

田邊:取り組み全体を通して、現在地はどこで、これからどこを目指していくのかが、READYFORさんのおかげでバチっと定まったと思います。
梅木:そうですね。今までは、霧のかかった山を登っている気分で、今どこにいるのか、どこに向かっているのか、そもそもどんな大きさの山なのかが分からずにいた感じでした。
それが今では、頂上がはっきり見えて、どれほどの大きさの山かも分かり、「この道を歩いたらいいよ」と道標を示してくれる伴走者がいる状態です。
私たちはその山のスタート地点に立っていて、あとは頂上に向かって歩き始めるだけです。

―登るべき山の頂上が見えた…嬉しいお言葉です。この記事は学校法人をはじめとして、これから寄付活動に注力したい方々がご覧になると思いますが、学校におけるファンドレイジングのポイントはなんだと思いますか?
田邊:内部にいる身として大事だと思うのは、生徒とのつながりですね。やっぱり、学校の事務局って教員に比べて生徒と距離があるんですよね。でも、生徒の声を拾えないとファンドレイジングは上手くいかないと思います。生徒を巻き込んで、その声を支援者に届け、橋渡しができるかどうかがポイントではないでしょうか。
梅木:支援の先には生徒がいます。生徒の学校生活をよりよくするため、もっというと、生徒の人生を輝かせるための「寄付」なので、支援者の方に直接的な見返りがない。ある意味では一方通行の要素が強いんだと思います。
だからこそ、「生徒が喜んでいる」とか「母校が自分のいた時よりも良くなった」といった、目に見える成果を支援者の方にお示しすることと、感謝の気持ちを伝えることがとても大切だと思います。

―最後に、お二人の今後の展望や意気込みをお聞かせください。
田邊:おかげさまで、戦略はできました。あとは前進あるのみです。今回定めた目標を達成できるように、とにかくやり切りたいと思います。とはいえ、他の業務も日々並行して進んでいくので、READYFORさんのようなスペシャリストが近くで伴走してくださるのは心強いですし、これからも頼らせていただければと思います。
梅木:元々「やるぞ!」という気概があって戦略設計のプロジェクトに入ったのですが、解像度が上がったことで希望が見えました。
READYFORさんは親身になってくださり、やりとりのレスポンスも早く、毎回的確なご意見をいただけるので頼もしいです。
私たちがこれから取り組もうとしていることは、学内の寄付の仕組み自体を変えようというチャレンジです。田邊と同様、やり切るのはすごく大変なことだと思います。でも、本当にいい学校なので、寄付活動を通じて我々の取り組みを発信していければと思います。それがご支援いただく方々からの評価につながりますし、現役の生徒と彼らを応援する同窓生の橋渡しにもなる。そんな想いで取り組んでいくつもりです。

・取材・文責:久田伸 (READYFOR ファンドレイジングサービス部門)・執筆:久高諒也・撮影:其田有輝也
担当 ファンドレイザー
久田 伸
エキスパートキュレーター / 准認定ファンドレイザー
千葉大学 教育学部卒。広告会社で企画・制作、CEO室立ち上げ、人事マネージャー、サービス開発責任者を経てREADYFORに参画。ファンドレイジングサービス部門の立ち上げから、サービス開発、組織開発に従事。国立科学博物館の「地球の宝を守れ」プロジェクトでは国内クラウドファンディングにおいて最高額・最高支援者数を記録*。(*2024年7月時点)
担当 ファンドレイザー
佐藤 佑亮
キュレーター / 准認定ファンドレイザー
新卒で日系コンサルティング会社へ入社し、プロジェクトマネジメントの実行支援に従事。その後、大手ECモールの事業戦略部門にて中長期の戦略策定や新規事業推進としてライセンスビジネスを推進し、2023年にREADYFORへ参画。スポーツ領域のプロジェクトを中心に、子ども支援や博物館、大学のプロジェクトなど幅広く伴走支援をしている。
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